東京地方裁判所 平成7年(ワ)19943号 判決 1996年5月17日
原告 仁村秀人
右訴訟代理人弁護士 富田均
被告 中央信用金庫
右代表者代表理事 小林昌
右訴訟代理人弁護士 野田宗典
同 嶋田雅弘
補助参加人 草渚彰
右訴訟代理人弁護士 林和雄
補助参加人 西清史こと 任清
主文
一 被告は原告に対し、別紙貸金庫目録記載の貸金庫を開扉せよ。
二 訴訟費用のうち、参加によって生じた費用は補助参加人らの負担とし、その余は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
一 原告は、主文と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として、
「1 原告は、平成三年七月一六日、被告との間で、被告所有の別紙貸金庫目録記載の貸金庫(以下「本件貸金庫」という)を期間を定めずして使用する契約を締結した。
2 原告は、右同日、実父である亡任孝旺の遺言書等の遺品を本件金庫に保管した。
3 原告は、平成六年二月以降、被告に対し本件金庫の開扉を請求してきたが、被告は、次の理由によりこれを拒否している。
① 右契約に際しては、亡父の三人の相続人から、遺産分割協議書が成立するまで原告が単独では本件貸金庫の開扉はできない、他の二人の立会いを要する、との申入れがあり、被告はこれを承諾した。
② 原告からの開扉請求には、他の二人の相続人が承諾していない。
4 しかしながら、東京家庭裁判所における遺産分割調停は不成立に終わり、かつ、亡父には全遺産についての公正証書遺言が存在していたため、現在遺言執行者による遺言の執行手続が進行中であって、本件貸金庫にある遺品以外の遺産については既にすべて執行が完了している。
ところで、被告のいう「金庫の開閉に他の二人の相続人の立会いを要する」との制限は、遺産分割協議の成立までという不確定期限付きであるが、これは同時に「遺産分割協議の成立があり得なくなったとき」をも不確定期限とする趣旨と解されるべきである。そうでなければ、本件貸金庫は永久に開けられないという事態が生じてしまうからである。
そして、右のとおりもはや遺産分割協議の余地はなく、ただ遺言の執行が残るのみであって、「他の二人の立会いを要する」との制限の有効期限は到来しているというべきである。
5 よって、原告は被告に対し、前記貸金庫契約に基づき本件貸金庫の開扉を求める。」と述べた。
二 被告は、請求棄却の判決を求め、請求原因1の事実は認める、同2は不知、同3は概ね認める、同4は不知ないし争う、と述べ、原告、並びに補助参加人草渚彰及び任清の三名は、被告に対し、平成三年七月一九日頃、「遺産分割協議書が成立するまで本件貸金庫は右三人の立会いのもとでないと開閉できない、単独で開閉することはできない」旨の申入れをし、被告はこれを了解したものであり、右は四者間の合意と考えられる旨主張した。
三 補助参加人草渚彰は、同人の立会いのもとで本件貸金庫が開扉されることについて異議がない旨主張した。
四 補助参加人任清は、亡父の遺産分割協議ができるまでは三人の立会いのもとでないと本件貸金庫の開扉はできないとの合意が成立している旨主張した。
五 しかして、請求原因1及び3の事実、並びに亡父の遺産分割協議が成立するまでは、原告と補助参加人二名全員の立会いがなければ本件貸金庫の開扉ができないとの合意があることは、いずれも当事者間に争いがないところ、右の合意は、右当事者間に遺産分割協議が成立したときを不確定期限とした合意であると解されるが、右合意の趣旨については、当事者間に右の遺産分割協議が成立する見込が確定的になくなったときにも、右の期限は到来し、そのときから原告及び補助参加人ら当事者は、被告に対し、右三人の立会いを要せずして本件貸金庫の開扉を求めることができるようになるものと解するのが相当である。
そして甲第一ないし七号証、第八号証の一、二、第九ないし一四号証、第一五号証の一、二、第一六、第一七号証、乙第一号証、丙第一、第二号証、並びに弁論の全趣旨によれば、現時点においては原告と補助参加人任清との間に遺産分割協議が成立する見込は確定的にないことが認められるから、右の合意による期限は到来し、原告が被告に対し、単独で本件貸金庫の開扉を請求することができるようになったものと認めることができる。
六 右によれば、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文、九四条後段、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 大和陽一郎)
<以下省略>